2010年9月29日水曜日

教員研修会での発表

平野先生の腓骨の回旋についての論文(あえて題名は載せません)の抄録を載せます。

【はじめに】
足関節屈伸運動に伴う腓骨の内外旋は、屈曲時に外旋伸展時に内旋する、対して屈曲時に内旋し伸展時に外旋すると全く逆の報告がある。腓骨の回旋の有無を明確にすることは関節の安定性や機能を知る上で重要である。
今回、外傷歴のない20名20肢の足関節のCT像(最大屈・伸時、冠状断)で腓骨回旋の有無について画像解析に腓骨の回旋について観察した。その結果、画像解析では内旋と外旋でほぼ同数で、肉眼解剖観察では腓骨は足関節屈曲で内旋し伸展で外旋していた。
【材料と方法】
CT画像解析:
足関節部に外傷歴のない健常な学生と成人男性20名を無作為に選出した。下肢を固定する簡易装具を作成、これをCT撮影台に固定し冠状断撮影(日立社製W450)を行った。撮影肢位は、被験者を背臥位で右下肢を装具に固定し、自動運動による足関節の最大伸展・最大屈曲とした。脛骨前縁下端部(ほぼ足関節面)5cm近位部より、スライス厚2mm、スライス厚5mmにて遠位方向に4スライスをスキャンにアナログ画像を得た。これら画像をパーソナルコンピューターに取り込み、画像解析ソフト(Photoshop5.0)にて腓骨の回旋角度を計測し、屈曲時と伸展時で角度差を求めた。
 解剖観察:
名古屋大学医学部人体解剖教育用固定遺体1体(77歳女性)の左下肢で、肉眼解剖学的に足関節屈伸運動時の腓骨回旋の有無を観察した。剥皮後、下腿筋群全てを起始部で剥離し停止部まで展開、足関節周囲靱帯を露出した。大腿骨顆部より近位3cmほどの部分で切断した下肢を解剖台に水平に置き、脛腓間を内外側から把持しない状態と、強く把持した状態で、足関節より遠位の足部全体を持ち、足関節の屈伸運動を試み、その際の腓骨の回旋を肉眼観察した。同様のことを、足関節外側部の靱帯を後距腓靱帯、前距腓靱帯、踵腓靱帯切断の順で切断した上で行い、腓骨の回旋を観察した。この腓骨の動きをデジタルビデオで記録した。
【結果】
CT画像解析:
屈曲時・伸展時の腓骨回旋角度の差は1度未満が9名、2度未満が4名、3度未満が2名、4度未満が1名、5度未満が1名、5度以上が3名であった。伸展時に外旋していたものは5名、内旋していたものは6名であった。1度未満のものは動いていないとみなした。
解剖観察:
足関節屈曲で腓骨は内旋し、前距腓靱帯の緊張と後距腓靱帯の弛緩が観察された。伸展で腓骨は外線し、前距腓靱帯の弛緩と後距腓靱帯の緊張が観察された。この動きは外側の後距腓・踵腓・前距腓靱帯を切断した後も同様で、脛腓間を内外側より把持して行うことでより明瞭になった。
【考察】
足関節屈伸運動に伴う腓骨の回旋運動の有無については相反する報告がなされており、J.Castaingらは、距骨滑車は前方開の台形をしているため関節の安定性を保つために腓骨が伸展時内旋し、屈曲時に外旋すると述べ、Kelikianは距骨の動きに伴う足関節外側部の靱帯による牽引力から腓骨が回旋すると述べており、伸展時後距腓靱帯の牽引により外旋し、屈曲時前距腓靱帯の牽引により内旋するとしている。
今回の我々の、CTによる調査では足関節屈伸時の腓骨回旋は内旋と外旋でほぼ同数であったが、解剖観察では明らかに伸展時に外旋、屈曲時に内旋が観察された。その動きは脛腓骨を内外側から把持して行うことで更に明確になり、外側部の靱帯を切断した後も変化が認められなかった。これらのことは腓骨の回旋は腓骨と距骨の関節面の形状に依存していることを示唆している。CT画像解析での内旋外旋ほぼ同数の結果は、自動運動による筋の影響があるものと推察された。
【まとめ】
・足関節屈伸運動に伴う腓骨の動きについて、CT画像解析と解剖観察を行った。
・CT画像解析における足関節屈伸(自動運動)に伴う腓骨の回旋は、内旋と外旋がほぼ同数であった。
・固定遺体1体では、腓骨は伸展で外旋、屈曲で内旋していた。
・生体における足関節運動と腓骨の回旋には、筋や腱の影響があると考えられた。

2010年9月12日日曜日

サプリメントについて

今月号の関節外科は膝OAの特集です。
その中にグルコサミンやコンドロイチン、ヒアルロン酸などのサプリメントについての記載があります。
グルコサミンはin vitroでは抗OA作用を示すことが数多く報告されているそうです。またコンドロイチンのin vitroの効果として軟骨細胞からのプロテオグリカン産生を増強したり、滑膜細胞からのヒアルロン酸産生を増強することが報告されているそうです。
つまり経口摂取によって関節軟骨等の材料となるというだけでなく、何らかの生理活性を持つ薬剤としてOAに効果を示す可能性があると思われます。

前回JET会で話をしました大規模RCTの結果についても記載があります。
http://www.contentnejmorg.zuom.info/cgi/content/abstract/354/8/795

OA患者1583人を、グルコサミン塩酸塩1500mg/日、コンドロイチン硫酸1200mg/日、グルコサミン/コンドロイチン硫酸併用、セレコキシブ、プラセボの5群に振り分け24週後の鎮痛効果を評価したところ、患者全体ではグルコサミンの効果を見出すことができなかった。一方中等症以上の症例に限って解析を行うと、グルコサミン/コンドロイチン硫酸併用群で有効性が認められたとのことです。この論文の結論としてはこれらのサプリメントのエビデンスは認められないとのことですが、今後適応を絞るなどによって効果が認められるようになる可能性はやはり0では無いと思われ、これらのサプリメントが効かないと即座に否定してしまうのは少し乱暴ではないかと思われます。

一方、ヒアルロン酸経口摂取の有効性についても、明確なエビデンスはないとのことです。
高分子ヒアルロン酸には抗炎症作用があり軟骨保護に働くが、低分子ヒアルロン酸は炎症、血管新生、動脈硬化を引き起こすそうです。経口摂取により高分子のまま吸収されることは考えにくいとのことから、ヒアルロン酸は高分子の製薬を直接関節に投与しなくては効果がないと推測されるとのことです。

2010年9月8日水曜日

注! カネマン教授ではありません。

収入が上がるにつれ生活の満足度は上がるものの、必ずしも幸福感が増すとは限らないとする調査結果をダニエル・カーネマン米プリンストン大教授らがまとめ、米科学アカデミー紀要で7日発表する。
 「幸福は金で買えない」という通説を裏づける報告と言えそうだ。カーネマン教授は、米国人45万人以上を対象に調査会社が実施した電話調査のデータを基に、年収と幸福の関係を統計的に分析した。暮らしに対する満足度を10段階で自己評価してもらう「生活評価」の数値は、年収が増えるにつれ一貫して上昇した。
 しかし、「昨日笑ったか」などの質問で測る「感情的幸福」の度合いは、年収7万5000ドル(約630万円)前後で頭打ちになっていた。
 教授は「高収入で満足は得られるが、幸せになれるとは限らない」と結論している。