2011年6月3日金曜日

天気と疼痛

本年5月増刊のオルソペディクスに気になる論文が掲載されていました。
少しまとめて載せます。(微妙なニュアンスが違うかも知れませんので一度原著を読んでみて下さい。)

RAのラットを用いて気圧を低下させたり、気温を低下させたりしたところ、疼痛行動が増強したとのことです。この疼痛の増強は気圧低下によるものは、低気圧環境に到達した直後に出現しその後速やかに消失し、気温低下によるものは低温環境に到達してすぐは観察されず遅れて出現したそうです。
慢性痛患者に対して人工気候室にて27°から15°への寒冷暴露をおこなったところ、慢性痛患者では寒さを感じるにつれ痛みが強くなる傾向を認め、また健常者では左右同程度に皮膚血流の低下がみられたのに対し、慢性痛患者では患側の低下が少ないなどの非対称性がみられたそうです。
環境シミュレーターを用いて10分から30分間で大気圧から20~40hPa減圧し、15分間低気圧環境に保持し、10~30分間で大気圧に戻した際にVAS、Pain Visionで計測したところ気圧低下によって疼痛の増強がみられたそうです。(疼痛が変化する時間や時系列パターンなどは被験者ごとに異なっていた)
これらのように低温や低気圧による疼痛の増強を再現できたそうです。

この論文では慢性痛のメカニズムに交感神経系が関わっている病態(交感神経依存性疼痛)に注目しており、気圧低下があると交感神経を緊張させ、これにより末梢血管が収縮し組織内の虚血、酸素濃度の低下、pH低下などが発生し、元々感受性の高まっている痛覚線維を刺激し、容易に興奮を引き起こすことになり痛み、痛覚過敏になるとしています。ちなみに気圧低下を感知するセンサーは内耳(前庭器官)に存在する可能性が高く、これを破壊したラットでは疼痛行動に変化がみられなかったそうです。

またラットで実験したところ気圧の低下では疼痛行動の増強が交感神経切除によって消失したとしています。気温の低下では疼痛行動の増強は交感神経を除去しても変化しなかったため気圧低下による疼痛増強と気温低下による疼痛増強は交感神経の興奮という観点からはメカニズムが少し違うことが示唆されます。

気温低下の場合は慢性痛病態で出現する皮膚冷却に対する冷感受性線維群の反応強度の上昇と、反応する線維の出現頻度の増加、反応閾値の高温化といった感作現象の関与が考えられるとしています。


天気による疼痛の増強は患者さんの訴えだけでなく、自分も時々感じることですが、実際に研究をされているところは非常にユニークだと思います。発表者に敬意を表したいと思います。

1 件のコメント:

tomita さんのコメント...

新しい情報ありがとうございます。つい昨日も天気が悪く患者さん数名から疼痛の増悪を訴えられることがあり、おそらく自律神経(交感神経)の働きで疼痛が強くなることは理論上あり得るでしょうぐらいしか言えなかったので…
今度からは、これをもとにお話ししてみます。